あれは忘れもしない、平日の夜のことでした。仕事から帰り、疲れた体で自宅マンションのトイレに入りました。中に入って、何気なく内側のつまみを回して鍵をかけ、用を足し終えて、さあ出ようとドアノブを握って回した瞬間…「カチャ」。嫌な音がして、ドアノブが空回りするような感触。完全に閉じ込められてしまったのです。一瞬、頭が真っ白になりました。時刻は夜9時過ぎ。一人暮らしのため、外から助けを呼べる家族はいません。スマートフォンはリビングに置いたまま。わじわと焦りと恐怖が込み上げてきました。まずは落ち着こうと深呼吸し、ドアノブをもう一度ゆっくり、しかし力を込めて回してみました。やはり手応えがありません。ドアを叩いてみましたが、鉄筋コンクリートのマンションでは、隣人に聞こえる可能性も低いでしょう。時間だけが過ぎていき、焦りはどんどん募ります。「このまま朝までここにいるのか…?」そんな不安が頭をよぎりました。何か方法はないかと必死に考え、ドアノブの構造を思い出そうとしました。内側のノブの中心にネジのようなものが見えた気がしました。幸い、ポケットに小さなキーホルダーに付いていた簡易的なマイナスドライバーのツールが入っていました。それでノブ中心のネジを回せないか試みましたが、固くてびくともしません。万策尽きたかと思われたその時、ふと思い出しました。以前、ネットで「トイレのドアノブには外から開けられる非常解錠装置が付いていることが多い」という記事を読んだことを。もし私の部屋のドアノブにも付いていれば、外から誰かに開けてもらえるかもしれない。しかし、問題はどうやって外部に連絡するかです。最後の望みを託し、換気扇の隙間から力の限り叫んでみました。何度か叫んだ後、諦めかけた頃に、隣の部屋の方が気づいてくれました。事情を話し、管理人さんに連絡を取ってもらい、管理人さんが外から非常解錠装置を使ってドアを開けてくれたのです。ドアが開いた瞬間の安堵感と、助けてくれた方々への感謝の気持ちは、今でも忘れられません。この経験から、日頃のドアノブのメンテナンスがいかに重要か、そして非常解錠装置の有無と使い方を確認しておくこと、万が一に備えてスマートフォンを常に身につけておくことの大切さを痛感しました。